
輝ポストに皆様から寄せられたメールへ、宮本輝からの返書です。

今回は「輝ポスト」によく投稿される質問に、わたしなりにお答えしたいと思いま
す。それはわたしが25歳のときに突然かかった不安神経症(現在ではパニック障害
という病名がつけられています)を、わたしがどうやって克服したのか、その治し方
を教えてくれというお問い合わせに関するものです。とにかく多すぎて、おひとりお
ひとりにお返事を書けませんので。
この精神的な病気は、じつにつらいもので、どんな病気でもそうでしょうが、かかっ
た者にしか苦しみはわかりませんし、絶えず日常生活に重大な影響を与えてきます。
まず、ひとりで乗り物に乗れない。人ごみに行けない。ひとりでいることが恐い。あ
る一定の時間そこにいなければいけないという状況が恐い(美容院、理髪店、式典
等々)、などの症状があり、そういう状況に置かれると、異常な恐怖心とともに、動
悸、呼吸困難、発汗、震え、死の恐怖、発狂の恐怖、といった激越な症状に襲われま
す。
わたしは現在でも、疲れたり、体調が悪かったりすると、突然このパニック発作に襲
われます。高速道路のトンネル内で渋滞したなんていうと、もう確実にアウトです
ね。(^^;;
とにかく、専門の医師のところにまず行くことです。精神科、神経科、いずれでもい
いでしょう。治療は、なによりも病院に行くことから始まります。
ところがこの病気にかかる人は、専門の病院で診てもらうことをいやがるのです。そ
れがそもそも病気なのです。
いまはこの病気についての研究も進み、いい薬も開発され、心理的療法も併せて、日
常生活に支障のない状態になり、元気に働いているかたがたくさんいます。
わたしは、医師が処方してくれたコンスタンという薬と、セパゾンという薬をそのと
きの状況に合わせて使っています。抗うつ剤と併用するともっと効果があると聞いて
いますが、いまのところ、わたしは抗うつ剤は使ったことがありません。
いずれにしても、「精神力」とか「根性」とか「気合」などで治る病気ではありませ
ん。病気の原因は、つまるところその人の「気質」から来ているからです。まず、自
分がそういう気質を持っている人間であることを認めなければなりません。人のこと
を思いやらない、あつかましい、先のことなど心配しないという人は、この病気には
かかりません。(^^)繊細で、感受性が強く、先の先のことまで考えるという性分
の人がかかりやすいのです。
とにかく、いますぐに専門医の診察を受け、医師の処方どおりに薬を服用し、自分の
考えで勝手に薬をやめないことです。
薬で治るものは薬で治せばいいのです。胃がもたれたら胃酸を飲むのは抵抗がないの
に、こういう薬には抵抗を示してしまうのは不思議です。
わたしの医師は、パニック発作で死んだ人はいないし、気が狂った人もいない、と
言っています。他の精神科医も同じ言葉を繰り返しています。
|
宮本輝
|
←第ニ回 |
©Teru Planning Co, Ltd. All rights reserved.
|